三次元CADで設計しそれを有限要素法ソフトにインポートして解析する方が大半だと思いますので,このような方を対象とした解析手順とV&Vの方法を述べます。ひとつ目のVは検証(Verification),ふたつ目のVは妥当性確認(Validation)です。
図1に解析手順と手順の各ステップで発生する「不確かさや現実との差の原因」を示します。注意すべき点は,現実と解析結果との間に「差」があることです。この差は解析手順を進めるに従って増えていきます。①この差を小さくすることと,②差の度合いと結果に及ぼす影響を認識,することが必要です。このための活動がV&Vです。
予備解析を中心として,入力データが正しく作成されていることを確認する作業です。下記アイテムを確認します。
簡素化した形状データの正しさ
インポートした形状の長さの単位が,[m]単位か[mm]単位か
材料定数の単位系
材料定数(ヤング率,弾塑性,硬化則の定数など)のばらつきが結果にどの程度影響を及ぼすか。特に非線形解析の場合
正しい解析結果が得られる要素分割の細かさ
要素形状の健全性(アスペクト比,ゆがみ)
境界条件の設定方法が正しいものであるか
新しい解析機能を使う場合,その動作確認
選択した要素が適切か(1次要素,2次要素,六面体要素,四面体要素)
特に有限要素法ソフトの新しい機能を使う場合は,厳密解や実験値がある問題を有限要素法ソフトで解いてみて,厳密解や実験値と計算結果とを比較して動作確認をします。例えば私の場合,有限要素法で引張試験を実施し,応力ひずみ曲線が実験値と一致することを確認していました。
正しい解析結果が得られる要素分割の細かさを確認する作業も重要です。要素分割の妥当性確認のページで説明しています。
検証とは,解析計画のとおりに解析が実施されていることおよび適切な解析が実施されていることを確認する活動で,解析が論理的および数学的に正しく行われたことを確認するプロセスであります。
解析後の検証では下記アイテムを確認します。
計算誤差が許容範囲に収まるような要素分割だったか
計算される反力は,意図した荷重条件と釣り合っているか
非線形解析における収束状態は良好か
警告,エラーメッセージが出ていないか
応力分布,変形挙動などは解析条件に対して妥当か,不自然な挙動はないか
結果の表示方法に誤りはなかったか
結果の抽出方法は適切だったか
妥当性確認とは,入力データおよび数値計算に関わる一連の検証作業を確認したうえで,問題の理想化および解析結果が,意図した用途に対して許容される範囲で,工学的に妥当であることを確認する活動であります。このうち,解析結果は何らかの独立した手法を用いて妥当性を確認されなくてはなりません。
妥当性確認に必要な作業として考えられるものを以下に記します。
解析計画のレビュー : 理想化した解析モデル,理想化した境界条件など理想化(モデル化)が適切であったかを再確認する。そして,選択した解析方法が妥当であったかを再確認する。
検証過程のレビュー : 妥当性確認は検証が完了したことを前提としているため,検証が正しく行われたかを確認する。
手計算結果との比較 : 実モデルを大胆に簡素化し,厳密解,工学式,実験式により求めた代表部の変位,応力,温度,あるいは全体的な固有振動数と,解析結果とを比較することで妥当性を確認する。
クロスチェック解析 : 異なる解析モデルやシミュレーションソフトによる解析結果と比較する。または,独立したチームによる解析結果と比較する。クロスチェック解析は追加費用が発生するため,解析の重要度などに基づきその必要性を判断することになります。
実験結果との比較 : 実機の一部を取り出した環境を作り出し,それから得られたデータと比較する。
製品の評価試験結果との比較 : 製品や設備の開発を前提としている場合がほとんどだと思いますので,製品や設備の評価試験を行うと思います。評価試験項目に解析結果と比較できるデータの取得を追加し,この結果と解析結果を比較します。
単純化したモデルによる予備計算 : 対象を単純化したモデルについて予備解析を行い,意図している応答が得られていることを確認する。いわゆる動作確認である。
使用する要素を変えた解析 : 使用する要素が異なる別のモデルによる計算を行ってモデル化の妥当性を判断する。例えば,本番解析はソリッド要素でモデリングした解析に対して,シェル要素やビーム要素でモデリングして結果を比較する。
感度解析あるいは上下界解析 : 解析パラメータを変化させて結果に与える影響を把握することで,解析パラメータの妥当性を判断する。または,解析パラメータの上限と下限に対する解を求めて,ばらつきの範囲を把握する。特に非線形解析では重要となります。
以上,事前検証,検証,妥当性確認の方法を述べましたが,これらのすべてを実施するには大変な労力と費用がかかります。優先順位を決めて実施するのが現実的かと思われます。私が考える優先して実施すべき作業は,手計算結果との比較と要素分割の細かさの確認です。それぞれ別のページで詳しく説明しています。
1) 日本計算工学会,日本計算工学会標準 工学シミュレーションの品質マネジメント,JSCES S-HQC001,(2011)
2) 日本計算工学会,日本計算工学会標準 工学シミュレーションの標準手順,JSCES S-HQC002,(2011)
3) 日本計算工学会,日本計算工学会標準 学会標準(HQC001&002)事例集,JSCES S-HQC003,(2015)
4) 白鳥,越塚,吉田,中村,堀田,高野,工学シミュレーションの品質保証とV&V,丸善,(H25)
仮想仕事の原理 を追加しました。