公称応力(nominal stress)と真応力(true stress)には以下のように2つの意味があります。
応力集中を考慮せずに求めた応力(公称応力)と,応力集中を考慮して求めた応力(真応力)
応力の計算において,荷重Pを変形前の断面積Aoで割って求めた応力(公称応力)と,変形後の断面積Aで割って求めた応力(真応力)
応力集中を考慮せずに求めた応力を公称応力と呼びます。
先端に荷重が作用する片持ちはりを例にして説明しましょう。図1に示したようなすみ肉溶接された片持ちはりのA点の応力を求めてみます。長さL(25mm),厚さh(10mm),奥行きb(10mm)の片持ちはりの先端に荷重P(100N)が作用しているとします。
A点の応力σoは次式で表されます。ここでMはA点の曲げモーメント,Iは断面二次モーメントです。長さの単位を[m]に変換して計算しますね。
こうやって計算した応力が公称応力です。A点の応力集中を考慮していませんね。この他に材料力学で習った方法で求めた応力は公称応力です。
一方,真応力は,応力集中を考慮して求めた真なる応力です。
有限要素法ソフトを使って求めた線C上の応力分布を図2に示します。x=0[mm]近傍で応力が急峻に上がっていますね。これが応力集中です。真応力は図2の青い線で表されます。A点の真応力は38[MPa]となりました。
公称応力は図2の青い線をx=0[mm]まで延長することで求まりますが,有限要素法ソフトは公称応力を求めることができません。有限要素法ソフトで公称応力を求めたいときは,ホットスポット応力で代用します。
A点は応力特異点なので応力は無限大なのではと思われたら,その通りです。A点に小さなRがあるとお考え下さい。
初期断面積Ao,長さLoの丸棒を荷重Pで引張ったとします。丸棒は縦方向に長さLに伸びて,横方向は縮みます。丸棒が変形した後の断面積をAとします。
公称応力σoと公称ひずみεo(nominal strain)は次式で定義されています。
真応力σと真ひずみε(true strain)は次式で定義されています。真ひずみは,自然ひずみ(natural strain),あるいは対数ひずみ(logarithmic strain)とも言います。
公称ひずみεoと真ひずみεには,次式の関係があります。
変形が弾性変形ならば引張ったときに丸棒の体積が増えますので成立しませんが,塑性変形の場合は体積が変化しませんので次式が成立します。
(3)式と(7)式を変形して,公称応力σoと真応力σの関係を以下のようにして導くことができます。
(8)式は,(7)式(体積変化なし)を前提としておりますので,局所的な変形がないとき(例えば引張試験におけるくびれ発生がないとき)に有効です。
公称ひずみを(6)式に代入して真ひずみを求めたものと,公称ひずみと真ひずみの差[%]を表1に示します。弾性領域(公称ひずみで大体0.001[-]以下)では両者に差はありません。ひずみが0.1[-]を超えるころになると差が無視できなくなります。
弾塑性解析では有限要素法ソフトに応力-ひずみ曲線を入力しますが,そのときは真応力と真ひずみ(ないしは塑性真ひずみ)の関係を多直線近似して入力します。
仮想仕事の原理 を追加しました。