有限要素法で応力分布図を表示するとき,いろいろな選択肢があります。以下のようなものです。
σx(x成分垂直応力),σy(y成分垂直応力),σz(z成分垂直応力),
τxy(xyせん断応力),τyz(yzせん断応力),τzx(zxせん断応力)
σ1(第一主応力),σ2(第二主応力),σ3(第三主応力)
σeq(相当応力,ミゼス相当応力)
二番目のσ1,σ2,σ3(主応力)を説明します。
材料力学を履修した人は,平面応力状態の主応力(二次元版主応力)を習ったと思いますが,CAEを使った設計現場では三次元CADから形状データを有限要素法ソフトにインポートして三次元解析をするのがほとんどなので,ここでは三次元版主応力を説明します。しかし,計算力学技術者の資格認定試験(2級)では二次元版(平面応力)の主応力が出題されることが想定されるため,別のページで説明します。
三次元版主応力の説明の前に,三軸応力のページを読んでください。
図1を見てください。左側は応力を考える際に着眼している立方体の各辺がx軸,y軸,z軸と平行な場合です。この場合の応力成分は,σx,σy,σz,τxy,τyz,τzxです。図1の右側は着眼している立方体を傾けた場合です。このときの座標軸をx’軸,y’軸,z’軸,応力をσx’,σy’,σz’,τx’y’,τy’z’,τz’x’とします。これから,立方体を傾けたときの応力を考えていきます。
x’y’z’直交座標系がxyz直交座標系に対してどけだけ回転したかを,方向余弦で表現します。
図2に,x軸,y軸,z軸とx’軸の関係を示します。絵を単純にするためx’軸だけ書いています。x’軸とx軸とのなす角をθ,x’軸とy軸とのなす角をφ,x’軸とz軸とのなす角をψとします。これでx’軸の方向が定義できました。
図2において,x’軸を向き大きさ1のベクトルと考えます。このベクトルのx方向成分をl1(エルいち),y方向成分をm1,z方向成分をn1と表記します。(l1,m1,n1)をx’軸の(x,y,z)への方向余弦と言います。
(l1,m1,n1)は次式で表されます。同様の発想で,y’軸の(x,y,z)への方向余弦(l2,m2,n2)と,z’軸の(x,y,z)への方向余弦(l3,m3,n3)を定義します。以下のように9つの方向余弦成分で定義できました。
方向余弦成分が9つあると書きましたが,実は3つだけ決まれば残り6個は計算して求まります。独立変数は3つということです。
回転したx’y’z’直交座標系の応力成分の計算方法を説明します。σx,σy,σz,τxy,τyz,τzxと,σx’,σy’,σz’,τx’y’,τy’z’,τz’x’の関係は次式となります。
式で書くとみずらくなるため,行列式で表現しました。次式となります。
上手にx’軸,y’軸,z’軸の方向を決めると,τx’y’,τy’z’,τz’x’が同時にゼロとなる組合せがいくつかあります。このときのσx’,σy’,σz’を大きいものからσ1,σ2,σ3と表記します。σ1を第一主応力(最大主応力),σ2を第二主応力(中間主応力),σ3を第三主応力(最小主応力)と言います。そしてこのときのx’軸,y’軸,z’軸を主応力軸ないしは応力の主軸と言います。また,x’軸,y’軸,z’軸を向いた立方体の面を主応力面と言います。
x’軸,y’軸,z’軸の方向を変えるとσx’,σy’,σz’が変化しますが,その最大値はσ1より大きくなりません。つまりσ1がσx’,σy’,σz’がとりうる値の最大値です。また,σ3がσx’,σy’,σz’がとりうる値の最小値です。
個人的には,最大主応力と呼ばずに第一主応力と呼んでいます。理由は,「第一主応力の最大値」といういい方はピンときますが,「最大主応力の最大値」といういい方では何の最大値かピンとこないからです。
プラスの応力は引張応力なので,多くの場合第一主応力σ1は引張応力となり,マイナスの応力は圧縮応力なので,第三主応力σ3は圧縮応力となります。
σ1,σ2,σ3は,次式で示す三次方程式の3根であり,エクセルを使って求めることができます。三次元版主応力を求めるエクセルシートを作成しました。ここをクリックしてみてください。
(5)式を行列式で表現すると,次式となります。
有限要素法で求まる応力はσx,σy,σz,τxy,τyz,τzxの6つなのですが,この内のどの応力成分を引張強さσBや降伏応力σyと比較すればよいかはわかりませんね。主応力を簡単に言うと,「6つの応力成分を代表してひとつの応力値」としたものと解釈できます。代表として使うものは第一主応力(最大主応力)σ1です。正確には,主応力は最大主応力説に従って機械や構造物が破損(塑性変形や破壊)するかどうかを判断するときに使います。
また,疲労破壊するかどうかの検討では,最大応力と最小応力から平均応力と応力振幅を求めるのですが,最大応力を「最大応力が発生するような荷重条件で解析した結果」の第一主応力σ1とし,最小応力を「最小応力が発生するような荷重条件で解析した結果」の第三主応力σ3とする方法が考えられます。厳密にはσ1の方向とσ3の方向が一致していないのですが,厳しめの評価(安全側の評価)となりますので,複雑な応力が発生している場合,つまりσx,σy,σz,τxy,τyz,τzの6つが同時に発生している場合に有効だと思います。
材料力学ハンドブック(基礎編),日本機械学会,丸善,(1999)
仮想仕事の原理 を追加しました。