Windowsが64ビット化しマルチコアCPUが出現して,手軽な価格で購入できるコンピュータの性能が飛躍的に向上し,一方でシミュレーションソフトウェアのユーザインターフェイスが発達した結果,誰でも簡単にカラフルなシミュレーション結果を得ることができるようになりました。しかしここには危険が潜んでいます。有限要素法ソフトの計算が正常に終了しても,計算結果が製品設計に必要とする精度を持っていないことや,ひどい場合は桁外れの計算結果になってしまうことがあります。このような事態を避けるためには,有限要素法に関する知識が必要になります。
従来の専門書は有限要素法ソフトを作るための知識を記述したものがほとんどでした1)2)3)。最近,有限要素法ソフトを使うための知識を記述したものがいくつか出版されています4)5)6)。ここでは,有限要素法ソフトを使うための知識を中心に述べていきます。
有限要素法ソフトの初心者にとっては,どこから手をつけていけばいいか戸惑うこともあるでしょう。有限要素法入門のページで,必要最小限の手順を記しましたので参考にしてください。しかし,必要最小限の手順だけでよいということではありません。計算結果がその使用目的に対して許容される誤差の範囲内であることを確認しておく必要があります。そのための詳細な手順を解析手順とV&Vの方法のページに記します。また,有限要素法ソフトを使う前にすべきこととして事前検討があります。
最も基本的なことは単位系の統一です。三次元モデルの寸法の単位系と材料定数の単位系が統一されていないと計算結果は桁外れの結果となります。三次元モデルの寸法をメートル(m)でモデリングし,SI単位系で材料定数を入力することが理想です。三次元CADに付属している有限要素法ソフトでは,CAD側で寸法をミリメートル(mm)でモデリングして有限要素法ソフト側で材料定数を入力するときに,単位が指定されているものはそれに従って入力してOKです。しかし,材料定数の単位が明示的に指定されていない場合は要注意です。SI単位系でいいのか,N-mm単位系で入力すべきかわかりません。このようなときは答えがわかっている問題を解いてみるのが一番です。例えば,先端に荷重がかかる片持ちはりのたわみを有限要素法ソフトと手計算で求め,両者が一致することを確認します。材料定数の単位換算が必要なときは,単位換算方法のページを見てみてください。また,鉄鋼とアルミの材料定数を構造解析で使う材料定数に記しておきました。
有限要素法ソフトが1次要素を使っているのか2次要素を使っているのかをチェックすることはとても重要です。有限要素法ソフトで要素分割の度合いをディフォルト(初期設定値)で行っていても,1次要素を使っていれば多分必要とする計算精度は得られないでしょう。2次要素を使うべきです。有限要素法ソフトのディフォルトが1次要素になっていないかチェックしてみてください。この問題については,1次要素と2次要素と要素の種類で詳しく述べます。
2次要素を使っていることを前提でお話ししますが,要素分割の細かさも重要な問題です。一般的に,変形量を求める問題は比較的粗い要素分割でいいのですが,応力を求める問題は細かい要素分割が必要となります。有限要素法ソフトのディフォルトの要素分割では,必要とする精度で応力が求まらないことがあるでしょう。このような事態を避けるために,要素分割をいろいろ変えて計算する必要があります。要素分割と解析精度のページと要素分割の細かさの確認のページを参照ください。
応力特異点問題は,多くの解析に内在しながらも見逃している問題です。コーナRのついていない角などで発生し,弾性力学的な応力解は無限大となる点の存在です。有限要素法ソフトでは,要素分割の細かさに応じて応力値が変化します。よって,応力特異点の応力値は強度計算に使用できません。応力特異点のページで詳しく説明します。応力特異点の疲労強度計算方法は公称応力ベースの疲労評価のページで述べます。
1)戸川,有限要素法概論,培風館,(S56)
2)三好,有限要素法入門,培風館,(S53)
3)O.C.ツィエンキーヴィッツ,基礎工学におけるマトリックス有限要素法,吉識,山田 監訳,(S50)
4)栗崎,有限要素法はじめの一歩,講談社,(2012)
5)泉,酒井,実践 有限要素法シミュレーション,森北出版,(2010)
6)岸,有限要素法の基本と仕組み,秀和システム,(2010)
仮想仕事の原理 を追加しました。