仕事は「段取り八分」という言葉があるように,事前の準備がしっかりしておけばその後の作業は楽になります。事前検討はしっかりやりましょう。解析後にデザインレビューを行うことがありますが,実は解析前に行うレビューの方が重要だったりもします。
知りたいことを具体的に文章で表現して,課題をはっきりさせておくことが重要です。例えば「〇□を解析する」という表現は目的が漠然としていてふさわしくありません。以下のような表現とします。
「部品〇□の応力が最大となる点を探し出し,その点が疲労破壊するかどうか予測する。」
「ユニット〇□の最大変形量を求め,設計仕様を満足しているか調べる。」
「生産機械の加工点の振動変位のpeak-to-peak値を求め,設計仕様に収まっているか調べる。」
「ユニット〇□の固有振動数を求め,動力源の駆動振動数と共振しないか調べる。」
製品や装置全体を解析することは,解析モデルが複雑になりすぎて多分計算できないでしょう。課題の明文化で知りたい部分を特定しているので,その部分を抜き出して解析します。抜き出す範囲が狭いと境界条件を決めづらくなり,抜き出す範囲が広いと解析モデルが複雑しなり,なかなか難しい問題です。妥当な境界条件を決められる範囲で,抜き出す範囲を小さくすることを勧めます。ベテラン設計者に相談したり,デザインレビューを開くという手もあると思います。
解析の種類は以下のようにたくさんあります。この中から適切なものを選ぶ必要があります。
構造解析(静解析)
モーダル解析
時刻歴応答解析(モード重ね合わせ法と直接法)
伝熱解析
熱流体解析
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疲労破壊するかを調べるための解析では,平均応力と応力振幅を求める必要があります。このような場合は構造解析(静解析)を選択します。最大変形量を求める場合も構造解析を選びます。
振動変位のpeak-to-peak値を求める場合は,時刻歴応答解析を選択します。線形解析でよい場合はモード重ね合わせ法を選択します。材料非線形の場合(材料が塑性変形する場合),幾何学的非線形の場合(大変形問題),すべりを考慮した接触要素を使用する場合は,直接法(フル法)の時刻歴応答解析を選択します。直接法の時刻歴応答解析は静解析の数百倍の計算時間がかかりますので注意が必要です。
固有振動数が知りたいときはモーダル解析を選択します。固有振動数とそのときの振動形状が出力されます。モーダル解析でも変形量が出力されますが,この変形量はデタラメな値ですので採用しないでください。
温度分布を知りたい場合は伝熱解析を選択します。この場合,部品表面から空気中ないしは液体中に熱が伝達する度合いを表す熱伝達率が必要です。熱伝達率の予測はなかなか難しい問題です。室温の空気中に自然対流で放熱される場合の熱伝達率は2~10[W/m2K]にしておけばよいでしょう。
熱伝達率が不明な場合は,熱流体解析をすることになります。
詳細設計が終わった形状モデルをそのまま解析モデルにすることは得策ではありません。解析モデルが複雑になってしまい計算できないでしょう。手間がかかっても形状の簡素化をすべきだと考えております。
三次元形状モデルの準備のところで述べますが,解析用の形状モデルは,詳細設計が終わった三次元モデルの形状をかなり簡素化したものです。ここに差があります。特にネジ締結部はかなり簡略化されると思います。この点を承知したうえで解析しなければなりません。
解析対象は出来上がった実物です。一方,形状モデルは三次元CADでモデリングしたものです。三次元モデルには部品の表面粗さやネジ山まで形状に反映されていませんね。この時点でシミュレーション対象が抽象化されているといえます。このように実物と三次元モデルとの間には差があります。この差を承知したうえで解析しなければなりません。
解析範囲の決定のところで述べましたが,解析範囲は全体モデルから一部を取り出したものになります。この点に関しても解析モデルは抽象化されているといえます。
上述したように,解析範囲を絞込み,解析対象を抽象化し簡略化しているので,境界条件も実物の境界条件ではなく,抽象化と簡略化をしなければなりません。解析の意図を漏れなく反映しなければならないので,境界条件の決定は案外難しい作業です。ベテラン設計者に相談したり,レビューを開いて決めてください。
相当応力のコンタ図の応力の最大値(レジェンドの最大値)を見て,「ハイ終わり」ということは少ないと思います。疲労破壊の有無を予測する場合は,最大応力点を見つけ出し,その点の第一主応力の最大値と第三主応力の最小値を抽出する必要があります。0.3t法でホットスポット応力を抽出する場合は,板厚の0.3倍の位置にちょうど節点ができるように三次元モデルをボリューム分割しておく必要があります。
このように,結果の抽出をやりやすくするために事前に準備しておく必要がありますので,事前検討段階で結果の抽出方法を決定しておく必要があります。
V&Vのところで詳しく述べますが,解析結果が正しいものであったかどうかを検証する必要があります。検証方法を事前に考えておく必要があります。場合によっては予備解析を行うこともあるでしょうし,検証がしやすいような解析範囲,簡素化と抽象化,境界条件,結果の抽出方法があるでしょう。このようなことを事前に考えておきましょう。
仮想仕事の原理 を追加しました。