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構造解析のポカミスの原因の多くは,入力した長さ寸法,材料定数,重力加速度の単位のミスのようです。例えば,三次元CADで[mm]の単位でモデリングしたデータを有限要素法ソフトにインポートしたときに,有限要素法ソフトはそれを[m]の単位として解釈するような場合,つまり,長さ10[mm]のブロックが長さ0.010[m]ではなく10[m]として有限要素法ソフトにインプットされるような場合があります。
ANSYS Mechanical Workbenchのように単位系をソフトが管理していると少しは安心できるのですが,ANSYS Mechanical APDL(ANSYS Classic)のように単位系の管理をユーザが行う必要があるソフトでは,入力した数値の単位のミスの危険性が高まります。
構造解析のモデリングでは,長さの単位として[m]や[mm]が使われます。また,材料定数としてヤング率,ポアソン比,密度を入力する必要があります。ヤング率の単位としては[Pa],[N/mm2],[kgf/mm2]などが使われ,ポアソン比の単位は無次元量なので[-]が使われ,密度の単位は[kg/m3],[ton/mm3],[kg.s2/mm4]などが使われます。自重による変形量の解析では重力加速度を入力する必要があり,9.80665[m/s2],9806.65[mm/s2]などを入力します。
単位がいろいろあって間違えそうですね。ここでは,鉄鋼材料とアルミニウム材料を例にとって,構造解析に使う材料定数と重力加速度を整理したいと思います。
形状モデルを[m]単位でモデリングする場合と[mm]単位でモデリングした場合で,有限要素法ソフトに入力する材料定数の単位が大きく異なります。
STEPファイルやParasolidファイルでCADデータをインポートする場合,三次元CADでは[mm]単位でモデリングしても,有限要素法ソフトにインポートしたときに自動的に[m]単位に変換される場合がありますので,[m]単位に変換されるかされないかを確認しておく必要があります。片持ちはりのたわみなど解がわかっている問題を解いてみて,手計算結果と突き合わせることを勧めます。自重がかかる片持ちはりのページを参考にしてみてください。
形状モデルを[m]単位でモデリングした場合を述べます。ヤング率の単位は[Pa]で入力します。鉄鋼材料のヤング率は200[GPa]で,接頭語の”G”(ギガ)は109倍という意味ですので,200 × 109 [Pa]となります。ポアソン比は0.30[-]ですね。余談になりますが,ポアソン比の有効数字も2桁で入力してください。でないと計算結果の有効数字が2桁となりません。密度の単位は[kg/m3]なので7800[kg/m3]となります。重力加速度は9.8[m/s2]となります。有効数字を2桁で統一しました。
有限要素法ソフトが出力する応力の単位は[Pa],変位の単位は[m]となり,モーダル解析結果の固有振動数の単位は[Hz]となります。
形状モデルを[mm]単位でモデリングした場合を述べます。ヤング率の単位は[N/mm2]で入力します。鉄鋼材料のヤング率は2 × 105 [N/mm2]となります。ポアソン比は0.30[-]ですね。密度の単位は[ton/mm3]で入力するので,7.8×10-9[ton/mm3]となります。重力加速度は9800[mm/s2]となります。
有限要素法ソフトが出力する応力の単位は[N/mm2]ないしは[MPa],変位の単位は[mm]となり,モーダル解析結果の固有振動数の単位は[Hz]となります。
ここで密度の単位[ton/mm3]が気になります。なぜ[kg/mm3]でないのでしょうか。この謎の答えはヤング率の単位[N/mm2]にあります。力の単位[N]を分解してみると[kg.m/s2]となります。せっかく[mm]で統一していたのに[m]が混入しています。このあおりを食らって密度を0.001倍する羽目になったのです。mm-N単位系にはちょっとした矛盾がありますね。
簡単な応力解析では長さの単位を[mm]としてモデリングすることはありますが,私は基本的には長さの単位として[m]を使用しております。モーダル解析や自重を考慮する解析など密度が関係する解析では,必ず[m]単位でモデリングしています。
最初の方で力の単位を[kgf]とした工学単位系を紹介しましたが,SI単位系が普及したことと,もはや工学単位系を使うべきではないと考えておりますので,この単位系による数値は割愛します。
鉄鋼材料とアルミニウム材料の材料定数を表1に示します。
上述した材料定数において,[m]単位でモデリングした場合で使った単位がSI単位系に則っています。
仮想仕事の原理 を追加しました。