HOME > CAE・有限要素法 > ボルト締結部のモデリング方法
図1のような2枚のステンレス板がボルトで締結されて,先端に9.81[N]の荷重が作用しているときの先端変位をモチーフとして,ボルトのモデリング方法を4種類紹介します。そして,4種類解析モデルについて実験値と比較します。
1つめのボルト締結部のモデルは,図2に示すようにボルトとナットを円柱形にしたモデルです。「①接触及びボルト締結力再現モデル」と名付けました。ボルトを締結したときにボルトに軸力が発生しますが,これを表現するために,ボルトの軸に線膨張率を設定しボルト軸部を冷却して熱収縮させています。図3に冷却時の上下方向の応力分布を示します。ボルト軸部には約350[MPa]の引張応力が発生しており,ボルト軸力は約4400[N]となっております。
図2に示すように,板と板との間には摩擦係数0.15[-]の接触要素を配置しています。この接触要素は板どうしが接触しているときは反発力が発生し,離れているときは何も力が発生しない挙動を示す要素です。ボルトの頭と板の間には固着の接触要素を配置しています。この接触要素はボルトの頭と板がひっついて離れない挙動を示す要素です。
図1に示すような荷重条件で解析したところ,荷重点のたわみ量は,条件1(ボルト2本)で0.97[mm],条件2(ボルト4本)で0.76[mm]となりました。後で実験値との比較を述べます。摩擦係数を含む接触要素を使用したため,この解析は非線形解析となりました。
2つめのボルト締結部のモデルは,図4に示すようにボルトとナットによる締結をビーム要素で代替したモデルです。「②ビーム要素を用いたスパイダーモデル」と名付けました。ボルトとナットはなく,その代わりにφ4[mm]のビーム要素で板どうしを結合しています。ビーム要素のヤング率はボルトの材質であるステンレス鋼のヤング率(197[GPa])としました。板とビーム要素の結合点は,ボルトの頭とナットが板と接する範囲内の節点としています。板と板の間には接触要素は設けておりません。図のH寸法はわかりやすくするために設けたもので,実際は0[mm]です。
荷重点のたわみ量は,条件1(ボルト2本)で1.07[mm],条件2(ボルト4本)で0.78[mm]となりました。摩擦係数を含む接触要素を使用していないため,この解析は線形解析となり,瞬時に計算が終わりました。
3つめのボルト締結部のモデルは,図5に示すようにボルトとナットによる締結をMPC要素で代替したモデルです。「③MPC要素を用いたスパイダーモデル」と名付けました。ボルトとナットはなく,その代わりにMPC要素で板どうしを結合しています。ここで使用したMPC要素は変形しないビーム要素であって剛体ビーム要素ともいいます。板とMPC要素の結合点は,ボルトの頭とナットが板と接する範囲内の節点としています。板と板の間には接触要素は設けておりません。図のH寸法はわかりやすくするために設けたもので,実際は0[mm]です。
荷重点のたわみ量は,条件1(ボルト2本)で0.99[mm],条件2(ボルト4本)で0.74[mm]となりました。摩擦係数を含む接触要素を使用していないため,この解析は線形解析となり,瞬時に計算が終わりました。
4つめのボルト締結部のモデルは,図6に示すようにボルトとナットによる締結の代わりに板どうしを固着の接触要素で結合したモデルです。「④固着の接触要素を用いたモデル」と名付けました。
荷重点のたわみ量は,条件1(ボルト2本),条件2(ボルト4本)共に0.67[mm]となりました。摩擦係数を含む接触要素を使用していないため,この解析は線形解析となり,瞬時に計算が終わりました。
図7に示すような部品を製作して実際にたわみ量を測定しました。実験値は条件1(ボルト2本)で0.88[mm],条件2(ボルト4本)で0.75[mm]でした。
たわみ量について,実験値と各モデルによる解析値の比較を図8に示します。たわみ量についての実験値との差の絶対値を図9に示します。に示します。
ボルト2本については,①接触及びボルト締結力再現モデルが実験値に最も近くその差は9.9[%]でした。次に近いのは③MPC要素を用いたスパイダーモデルでその差は12.2[%]でした。
ボルト4本については,①接触及びボルト締結力再現モデルが実験値に最も近くその差は1.1[%]でした。次に近いのは③MPC要素を用いたスパイダーモデルでその差は1.2[%]でした。
解析精度についていうと①接触及びボルト締結力再現モデルが最も精度が高いという結果になりました。また,ボルト近傍の応力分布について図3に示したように実際の分布を求めることができます。しかし,非線形解析となるので計算時間がかかります。一方,2番目に精度が高かったのは②MPC要素を用いたスパイダーモデルでした。スパイダーモデルの場合大幅に簡略化しているので,ボルト近傍の応力分布は実際の応力分布とかけ離れたものになることに注意が必要です。
解析の場面で最も多く使用されるのが④固着の接触要素を用いたモデルではないでしょうか。このモデルは,板と板の接触面を完全に固着しているため,剛性が高めになります。ボルト2本の場合たわみ量は23.4[%]小さめに計算されました。また,ボルト近傍と固着の接触要素近傍の応力が実際の応力とかけ離れていることに注意が必要です。
ボルト2本止めのたわみ量とボルト4本止めのたわみ量に差がでました。図10に変形図を示します。ボルト2本止めでは,荷重時に板と板の間にすきまが生じています。このようにボルト2本止めは不安定な取り付け方法ですので,ボルトはなるべく4本止めにしたいものです。
仮想仕事の原理 を追加しました。