荷重の繰返し数が104回以下で破壊する疲労現象を低サイクル疲労(low cycle fatigue)といいます。このような疲労では応力やひずみは降伏点を超えている場合がほとんどです。降伏点を超える両振荷重が作用しているときの応力ひずみ線図を図1に示します。図において,Δεtは全ひずみ範囲,Δεpは塑性ひずみ範囲,Δεeは弾性ひずみ範囲,Δσは応力範囲です。範囲という言葉を使いましたが,これは振幅ではなく(最大値-最小値)を指します。
Δεt,Δεp,Δεe,Δσの間には次式の関係があります。Eはヤング率です。
荷重の繰返し数が104回以下において,Δεpと破断繰返し数Nfの関係を対数グラフ上にプロットすると直線となって,その関係を次式で表すことができます。
(2)式の関係をマンソンーコフィン則(Manson-Coffin's law)と言います。ここで,kpとCpは材料定数です。
有限要素法ソフトで弾塑性解析をすると相当塑性ひずみが出力されますので,(2)式を使って低サイクル疲労の寿命予測をすることができます。
同様に荷重の繰返し数が104回以上において,Δεeと破断繰返し数Nfの関係を対数グラフ上にプロットすると直線となって,その関係を次式で表すことができます。Δεe=Δσ/Eなので,ΔσとNfの関係も対数グラフで直線となり,これはS-N曲線になりますね。
ここで,keとCeは材料定数です。
設計の現場では,全ひずみ範囲Δεtを使うことが多く,(2),(4)式を(1)式に代入することで次式が得られます。
(4)式の定数Cp,Ce,kp,keを機械的性質から推定する式があります。以下の式です。
Langerの方法Langerの方法(5)式によると,Cp,Ce,kp,keは以下の値となります。
Mansonの共通こう配法Mansonの共通こう配法(7)式によると,Cp,Ce,kp,keは以下の値となります。
ここで,σwは両振疲労限度,σBは引張強さ,Dはφを絞り[%]として次式で表す量です。
SUS304材に全ひずみ範囲Δεt=0.01[-]の荷重が作用する場合の破断回数Nfと,設計解として使われる許容破断回数Nalを求めてみます。
機械的性質は,引張強さσB=520[MPa],両振疲労強度σw=182[MPa](σw=0.35σBとした),ヤング率E=1.97×105[MPa],絞りφ=60[%]とします。σBはステンレス鋼のJIS規格から,φは鋼材メーカのカタログから見つけることができます。
Langerの方法を採用し,(5)式を変形し数値を代入します。
3158[回]の荷重で破壊するとの結果となりました。
許容破断回数Nalを求めるには,安全率を考慮する必要があります。安全率として「荷重2倍,荷重回数20倍の小さいほう」が妥当だと思いますので,これを採用します。
荷重2倍の破断回数として,εt=0.02を上式に代入して計算しなおすと,破断回数は637[回]となりました。そしてマージンを含まないときの破断回数3158[回]の1/20は157[回]となりました。小さいほうを採用して,設計で採用される許容破断回数は157[回]となります。
日本機械学会,機械工学便覧 A4 材料力学,(1992)
仮想仕事の原理 を追加しました。