鉄鋼材料は疲労限度が現れますので,無限回の繰返し荷重に耐える応力振幅を疲労限度と呼びます。疲労限度が現れる理由は,繰返し荷重によってできた0.1[mm]程度のき裂の進展が止まるから(き裂の停留)とのことです。疲労限度が現れない材料については,106回程度の繰返し荷重に耐える応力振幅を,このサイトに限って「疲労強度」と呼ぶことにします。
疲労強度σwと引張強さσBはほぼ比例関係にあることを利用して,引張強さから疲労強度を求めます。
図1は鉄鋼材料の引張強さσBと疲労限度σwの関係です。文献では軸の単位が[tf/in2]だったので,単位を[MPa]に書き換えました。σw/σB=0.35の線を下限としてプロットがあります。引張強さσBの0.35倍を疲労限度とすれば間違いなさそうです。これを(1)式とします。
図1のA部に注目してください。σBが1400[MPa]を超えたあたりからプロットが上下にばらつき,σwがσBに比例しなくなって頭打ちになります。σwは700[MPa]程度が上限と考えたほうがよさそうです。また,σBが1400[MPa]を超える材料は使わないほうがよさそうです。σwを向上させる目的で焼入れをする際に注意が必要です。逆にσBが1000[MPa]以下の材料ではσw=0.5σBとしてもよいかもしれません。
多くの疲労強度σwのデータは,回転曲げ試験で取得されたものか引張圧縮試験で取得されたものかが記載されていません。回転曲げ試験のほうが容易にデータを取得できることから,記載されていないものは回転曲げ試験によるものと考えたほうが無難です。強度評価の対象が回転軸ならば問題ありませんが,有限要素法で求めた応力を疲労評価に使う場合,引張圧縮試験によって得られたデータを使うべきです。引張圧縮試験による強度が回転曲げによる強度より小さいため,引張圧縮試験による疲労強度を求める必要があります。これから回転曲げ試験で得られたσwから引張圧縮試験でのσwを推定する方法を述べます。
図2も引張強さと疲労限度の関係です。青線で囲った領域の中に,回転曲げ試験で得られた多くの疲労限度データが入ります。その中心は(2)式で表されます。赤線で囲った領域の中に,引張圧縮試験で得られた多くの疲労限度データが入ります。その中心は(3)式で表されます。引張圧縮のデータが回転曲げより小さな値ですね。
σw引張圧縮とσw回転曲げの比Cを求めます。(3)式を(2)式で割ったものを(4)式に示し,Cの値を図3に示します。σw引張圧縮は(5)式で求めることができます。
SS400材を例にとって,引張圧縮試験で得られる疲労限度を求めてみましょう。
σB=400[MPa]なので,(1)式から,σw回転曲げはこれを0.35倍して140[MPa]になります。図3よりσB=400[MPa]のときのCを読取るとC=0.88[-]となり,(5)式から,σw引張圧縮=140×0.88=124[MPa] となります。
式(1)において,下限の値(0.35)をとったことから,安全率のfmは1ではありませんが1に近い値をとることができます。
オーステナイト系ステンレス鋼の疲労強度も鉄鋼材料と同じように引張強さσBから求めることができます。
表1はSUS304LとSUS316Lの引張強さσB3),疲労強度σw3),σw/σBです。文献3)には応力比R=0.01の疲労強度が記載されていましたが,修正グッドマン線図を用いて両振り疲労強度σw(R=-1)を求めました。σw/σBは0.57[-]になりました。データが少ないので,若干のマージンを取ってσw/σB=0.5[-]とします。
アルミニウムの疲労強度も鉄鋼材料と同じように引張強さσBから求めることができます。図4は繰返し荷重回数Nとσw/σBの関係のイメージです。明瞭な疲労限度が現れずに,Nの増加とともにとσw/σBがだらだらと下がっていきます。
図のL1点,L2点,U1点,U2点の数値を文献2)から読取りました。これを表2に示します。表の見方を説明します。5000系のσw/σB 回転曲げのL1は0.38[-]です。これは,5000番台のアルミニウム合金の回転曲げ試験で測定され,荷重回数が107回の疲労強度(応力振幅)が,σBの0.35倍であることを意味します。
次に,σw引張圧縮とσw回転曲げの比Cを求めます。表1の6000系のσw/σB(回転曲げ)のデータ(0.35)と,6000系と7000系のσw/σB(両振り引張圧縮)のデータ(0.25)を使います。この比(0.25/0.35=0.71)をCとします。
荷重繰返し数が10^8回以上の場合を述べます。アルミの場合は疲労限度が観測されません。つまり,108回の繰返し荷重に耐えても,109回の荷重で破断する可能性があります。そのために108回のσw/σBを表に書きました。L2です。荷重回数が108回以上のときは,L1とL2を使って外挿してください。S-N曲線のカーブは凹形をしているため,この外挿は安全側の見積りになります。
A5052材の引張圧縮試験をしたときに得られる疲労強度を見積ってみます。σBは195[MPa]です。表1の5000系のL1は0.38[-]なので,σw回転曲げ=195×0.38=74.1[MPa]となり,C=0.71[-]からσw引張圧縮=0.71×74.1=52.6[MPa]となります。
1)日本機械学会,機械工学便覧 A4 材料力学,(1984)
2)日本機械学会,疲労強度の設計資料 Ⅰ 一般,寸法効果,切欠効果,(S63)
3)由利,緒形,斎藤,平山,極低温におけるオーステナイト系ステンレス鋼溶接材の高サイクル疲労特性,鉄と鋼,Vol.84 No.12,(1998)
仮想仕事の原理 を追加しました。