応力拡大係数を求めたい場合,文献に計算式が載っているのでまずこれを利用する方法を第一に考えますが,部材の形状による応力拡大係数がズバリ文献に載っていればよいのですがそうでない場合も多く,そのような場合は有限要素法を使って求めることになります。
有限要素法により応力拡大係数を求めるには,以下の方法があります。1)
ハイエンドの有限要素法ソフトでは,応力拡大係数K,エネルギ開放率G,J積分値を直接求める機能がありますので,これを使う選択肢が現実的です。
ここでは,K,G,Jを求める機能のない普通の有限要素法ソフトで,直接変位法を用いて応力拡大係数を求める方法を説明します。
変位法による有限要素法では,変位が直接求まり応力は変位を微分したものであるため,変位の方が精度が高いです。よって,直接応力法ではなく直接変位法を使います。直接変位法を使ってモードⅠ(平面応力状態)の応力拡大係数KⅠを求める方法を説明します。
図1のような座標系を設定したときのモードⅠのy方向変位vは,応力拡大係数のページで述べたように(1)式で表されます。
ここでκは次式で表されます。
有限要素法でKを求めるときは,き裂の開口側の変位を使います。ν=0.3[-]として(1)式にκとθ=180[°]を代入すると,き裂開口部の変位vは次式となります。
図2に,き裂が開口するような荷重が作用したときのき裂の形状を示します。θ=180[°]なのでr軸は-x方向を向きます。き裂の形状v(r)は√rに比例した形になります。rにおける変位v(r)を使って応力拡大け数KⅠを求めます。
(3)式を変形します。
有限要素法で解析したいき裂をモデリングし荷重条件を与えて解析して,き裂部近傍節点の節点座標とy方向変位vをテキスト出力します。節点座標からr座標を求め,r値(単位は[m])とy方向変位v(単位は[m])を(4)式に代入してKⅠを求めます。このときヤング率の単位を[MPa]としておきます。鉄なら2×105[MPa]ですね。き裂線上の節点数をnとすればr値とKⅠ値はn組あります。次に図3に示すように横軸をr値,縦軸をKⅠ値(単位は[MPa√m])としてグラフ用紙にプロットします。と言っても今はエクセルの散布図ですね。
そして,プロット群を使って外挿してr=0[m]におけるKⅠ値を求めます。具体的には,プロットを1次式でカーブフィットして,その式の縦軸切片がKⅠ値となります。このときr=0[m]近傍で,カーブフィットした式から離れるプロット(図3のA)が現れますが,これらは無視します。
以上が直接変位法によるKⅠの求め方です。同様の手順でKⅡ,KⅢも求めることができます。
図4のようなき裂のKⅠを実際に有限要素法を使って求めてみましょう。最初に断っておきますが,応力拡大係数の計算では長さの単位は[m],応力の単位は[Pa]で行ってください。そして④式の計算の段階のときだけヤング率の単位を[MPa]にしてください。そうすればKⅠの単位は[MPa√m]になります。
図4の問題は答がありまして,次式で表す近似式で応力拡大係数を求めることができます。
応力拡大係数は6.63[MPa√m]です。それでは,有限要素法を使ってKⅠを求めてみましょう。
図5のようなモデルを作ります。解析対象は上下対称なので上半分だけモデル化した1/2対称モデルで計算します。そしてき裂先端付近は特別に小さな要素分割をするため,ボリューム分割をしております。
三次元CADでモデリングして,それを有限要素法ソフトに読込んで解析するような方を説明の対象としておりますので,解析モデルは薄い板の三次元モデルとしました。二次元解析ができる方は平面応力問題として取組んでください。
次に,図6のような境界条件を設定します。普通,要素分割の後に境界条件を設定しますが,便宜上ここで説明しておきます。
要素分割では,き裂近傍のボリュームを細かく分割します。図7に分割する要素サイズを示します。実際に分割した要素を図8に示します。
応力拡大係数のページで述べたように,(1)式による近似が成立するのはき裂先端からき裂長さの1/10の距離の範囲です。よって要素分割はき裂長さの1/10の距離のところが細かくなるようにします。
図9に解析結果のうちのy方向応力分布を示します。き裂開口部のy方向変位が√rに比例した量であることがわかります。
き裂面上の節点について,節点座標とy方向変位をテキスト出力してエクセルに読込みます。節点のx座標値からr座標を計算し,(4)式からKⅠを計算し,それをプロットしたもの(◆青色プロット)を図10に示します。そしてプロットを1次式でカーブフィットした線を赤色の線で示します。カーブフィットした線の縦軸切片が求むるモードⅠの応力拡大係数KⅠです。
有限要素法によるKⅠ値は6.59[MPa√m]となりました。(5),(6)式による値は6.63[MPa√m]ですので0.6[%]の差です。なかなか良い一致をみました。
日本機械学会,計算力学ハンドバック,丸善,(1998)
仮想仕事の原理 を追加しました。